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札幌高等裁判所 平成8年(ネ)148号 判決

《住所省略》

控訴人

片山一歩

札幌市白石区本通19丁目南6番8号

被控訴人

株式会社つうけん

右代表者代表取締役

久保田俊昭

右訴訟代理人弁護士

山根喬

市川隆之

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

一  当事者の求めた裁判

1  控訴の趣旨

(一)  原判決を取り消す。

(二)  被控訴人の平成7年6月29日開催の第49回定時株主総会における,原判決別紙決議目録記載の決議をいずれも取り消す。

2  控訴の趣旨に対する答弁

主文一項と同旨

二  事案の概要

1  本件は,被控訴人の株主である控訴人が被控訴人に対し,平成7年6月29日開催された被控訴人の第49回定時株主総会(以下「本件総会」という。)は,招集手続及び決議の方法に瑕疵があるとして,本件総会でなされた決議の取消しを求めたところ,原審がこれを棄却したので控訴人が控訴した事案である。

2  本件の経過及び争点は,原判決2枚目表1行目の冒頭から9行目の末尾までに記載のとおりであるからこれを引用する。ただし,原判決2枚目表6行目の末尾の次に行を変えて「(以上の事実は当事者間に争いがない。)」を加える。

三  証拠関係は,原審及び当審記録中の証拠関係目録記載のとおりであるからこれを引用する。

四  取消事由についての控訴人の主張と当裁判所の判断は,原判決2枚目裏2行目の冒頭から同12枚目裏3行目の末尾までに記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,次のとおり付加訂正する。

1  原判決2枚目裏2行目の「提案理由」の次に「添附の別表部分」を加え,同行の末尾の次に「右削除は,商法232条の2第2項に反する。」を加え,その次に行を変えて次のとおり加える。

「(当審における補充主張)

(一)  原判決は,別表部分の削除は大会社の株主総会の招集通知に添付すべき参考書類等に関する規則(以下「参考書類規則」という。)4条1項1号に合致しているから違法ではないと判示しているが,右別表部分は,参考書類規則4条1項1号所定の参考書類ではなく,株主提案議案及び取締役会提案議案がそれぞれ可決された場合の状況を比較説明する招集通知の範囲内の包括的説明であるから,同規則の制限を受けない。すなわち,参考書類規則の上位規範である株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律(以下「商法特例法」という。)21条の2所定の参考書類は,招集通知に添付されるものであって招集通知に代わることはできないところ,参考書類規則4条1項1号により提案理由が字数制限を受けるのは,あくまでも「参考書類」の範囲内の限定的な部分であって,「招集通知」の範囲内にある包括的な説明部分まで字数制限をすることはできない。

(二)  株主提案の議案はその重要性に鑑みて議案の要領を株主総会の招集通知に記載することが法的に強制されている。したがって,その要領を説明するならば当然字数も多くなるから,表などを用いて分かりやすくするのが法の趣旨から当然の配慮といえるのに,議案の要領の説明部分である別表まで字数制限をするのは本末転倒であり,別表部分の削除が商法232条の2に違反することは明らかである。」

2  同3枚目表1行目の冒頭から同3枚目裏5行目の末尾までを次のとおり改める。

「(二) 商法232条の2,商法特例法21条の2,参考書類規則4条1項1号によれば,6か月前より引き続き発行済株式総数の100分の1以上に当たる株式又は300株以上の株式を有する株主は取締役に対し,会日より6週間前に書面をもって一定の事項を会議の目的となすべきことを請求することができ,右株主は,会日より6週間前に書面をもって会議の目的たる事項につき株主の提出すべき議案の要領を株主総会の招集通知に記載することを請求することができ,資本の額が5億円以上又は負債の合計額が200億円以上で議決権を有する株主の数が千人以上の株式会社(以下「大会社」という。)にあっては,株主総会の招集の通知には,議決権の行使について参考となるべき事項として参考書類規則で定めるものを記載した書類(以下「参考書類」という。)を添付しなければならず,参考書類には株主総会の議案が株主提出に係る旨,その株主の持株数及び議案に対する取締役会の意見,株主から400字以内の提案理由を記載した書面が株主総会の会日の6週間前までに提出されているときは,当該理由又はその要旨を記載しなければならないとされている。以上のとおり,商法特例法上の大会社の株主が商法232条の2により株主総会への株主提案権を行使する場合,議案に提案理由を付することは要件とされていないが,一定の要件を備えた提案理由についてはこれを株主総会の招集通知に記載することを請求することができるものの,その場合の提案理由の字数は400字に,提出期限は会日の6週間前に制限されているから,会社は,制限された字数を超える提案理由及び所定の期限に遅れた提案理由については本来参考書類への記載義務は負わないと解される。しかし,制限字数を超えた提案理由であっても会社が株主に対する情報開示を必要と判断した場合は,提案理由の趣旨を損なわないようにして400字以内に提案理由を要約して要旨として任意に参考書類に記載することは当然許されると解される。

(三) 前記争いのない事実,甲第4,5号証,乙第1,2号証,第6号証及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人は,本件総会の当時,資本の額は5億円以上で,議決権を有する株主の数は1000人以上の株式会社であったこと,控訴人は,控訴人を含む株主29名の代表として商法232条の2に基づき被控訴人に対し,平成7年5月8日ころ,議題1「第49期利益処分案における1株当たり配当金を7.5円とする件」と題する議案を本件総会の目的となすべきことを同日付け書面(以下「本件請求書面」という。)により請求したこと,右書面には議案の内容と提案理由が議案の要領として記載されており,議案の内容として「第49期利益処分案における利益配当金を1株当たり7.5円とする。なお,その他の利益処分については取締役会の案を準用する。」と記載されていること,提案理由は本文及び別表からなり,提案理由本文には,効率的な収益見通しがある場合は内部留保を充実し,配当金は少なくするべきであるが,収益見通しが不明確で株主にとって不利な投資が考えられる場合は,配当金を増やすべきであり,『下表のように』株主1300人への配当金と役員16人の報酬賞与がほとんど変わらないという状態にも問題がある旨400字近い字数で記載され,右の『下表』に当たる別表の字数を加えると提案理由全体の記載は400字をはるかに超過していること,別表には控訴人の提案理由を裏付ける資料として昭和63年から平成6年まで毎年9月の決算期及び平成7年3月の6か月決算の1株当たりの配当金,株主資本利益率,株主資本配当率,単位株主数配当金総額,役員数と報酬賞与額等の具体的数値が記載されていること(ただし,本件請求書面には提案理由中の数字について不正確な部分は被控訴人において正確な数字に訂正することを控訴人から要望する旨の記載がある。),被控訴人(取締役会)は株主総会の招集通知の本文に控訴人らの提案した前記議題を第3号議案として本件請求書面に記載されたとおり記載し,議案の要領については参考書類に記載のとおりであるとして,参考書類に右議案の提案株主数と持株数,右議案の内容と提案理由,右議案に対する取締役会の意見を記載したこと,被控訴人は,右提案理由のうち別表は参考書類に記載しなかったものの,提案理由本文は『下表のように』との文言を除いて本件請求書面に記載されたとおり記載したことが認められる。

右事実によれば,被控訴人は,本件総会の招集通知本文に控訴人らの提案の議題を記載したが,その提案理由は字数が400字を超えていたので本来招集通知添付の参考書類に記載する義務はなかったものの,別表部分を除いてその余の提案理由の部分を本件請求書面の記載に沿ってほぼそのまま記載したものであるところ,右方法による要約により提案理由の趣旨が損なわれたということはできず,被控訴人が招集通知の参考書類として右別表部分を記載しなかったことをもって招集手続に瑕疵があり違法であるということはできない。

(四) 控訴人の当審における主張について

控訴人の当審における主張の趣旨は必ずしも明確ではないが,前記別表は株主提案議題の包括的説明部分であるから参考書類に記載されるべきものではなく,招集通知そのものに記載されるべき性質のものであり,議案の要領を招集通知に記載することは法的に強制されているから,字数の制限は受けないとの主張と解することができるとしても,右別表は,1株当たり配当金を7.5円とする旨の控訴人その他の株主の提案の理由を控訴人ら株主が説明する中で,その主張を根拠付ける事実を表す形式で記載して引用するために添付された書面であって,提案理由の一部をなす資料と認められるものであること,控訴人は被控訴人に対する株主提案を請求した書面において議案の要領を議案の内容と提案理由に分けて記載し,別表はこれを提案理由の一部として記載していることを考慮すると,右別表は参考書類規則4条1項1号所定の字数の制限を受ける提案理由に該当するというべきである。なお,控訴人は株主提案の場合は招集通知に議案の要領を記載すべきことが法的に強制されているから別表を削除することはできない旨主張するが,商法上招集通知に記載することが要求される重要な議題の議案の要領に当たるか否かは議案の内容により個別的に定められている(商法280条の2第3項,341条の2第5項,341条の8第6項,342条2項,375条2項,408条2項,5項,245条2項等)のであり,株主提案議題はその内容に関わりなくすべて重要な議題であるということはできず,本件の利益処分に関する議案は参考書類規則4条1項1号のほかその要領を招集通知に記載すべき法的根拠はない。しかも,議案の要領とは,議案の内容を要約した内容上の要点ないし基本的内容をいうと解され,前記の別表は提案理由の一部を構成するものであるから,これを議案の要領として記載すべきであると解する余地があるとしても,要約するために別表が削除される可能性は十分にあるといわなければならない。控訴人の主張は理由がない。」

3  同3枚目裏8行目の「被告は,」の次に「本件総会招集通知本文とこれに添付された議決権行使書面及び」を加え,9行目の末尾の次に行を変えて次のとおり加える。

「(当審における補充主張)

右会社提案なる記載は,単なる取締役(会)の提案に過ぎないものを会社全体の総意として提案された善の提案であるかのような印象を与え,同時に提案された株主提案は悪の提案であるとの印象を与えてこれを不利に扱うものであって,その賛否に影響を与えるものであり,今後もこのような不正確な記載がなされるのであれば,著しく不公正な記載として決議の取消原因になって当然である。原判決は,右の記載は不正確であるが瑕疵の程度が軽微であるというが,軽微な瑕疵は総会決議の取消原因になるというべきである。」

4  同3枚目裏10行目の末尾の次に行を変えて「甲第2号証,第5,6号証,乙第2,3号証,第4号証の1,2,第5号証及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人は本件総会の招集通知の本文とこれに添付された議決権行使書面及び本件参考書類に,取締役提案の議案を会社提案と記載したこと,取締役提案の議案の記載事項に関して規定した参考書類規則3条は見出しに,右議案について会社提案の語を使用しており,被控訴人のほかにも会社提案という表記を用いる例が見受けられること,本件総会において控訴人から会社提案という文言は取締役会提案とすべきである旨の指摘を受けた議長は取締役会の決議をもって提案したものである旨答え,取締役提案である趣旨を明確にしたことが認められる。」を加える。

5  同4枚目表2行目の「成立しない),」の次に「右認定事実によれば,」を加え,4行目の「ことが,」を「ことは,会社提案という記載を取締役の提案の趣旨で用いる用語例が一般に行われており,本件総会において議長は会社提案の意味について取締役会の議決を得て提案した旨答弁していることを合わせ考えると,右の記載が株主に対して誤った情報を与えるとか右用語自体により株主提案の賛否に影響を与えるとは考えられないから,」に改め,同行の「まで」を削る。

6  同4枚目表末行の次に行を変えて次のとおり加える。

「(当審における補充主張)

全議案(本件では取締役提案と株主提案)を同様の取り扱いをすべきであることは,参考書類規則7条は『各議案について』と記載していて同6条が『議案ごとに』と記載しているのとは異なった表現をしていることからも裏付けられ,また,平等の原則からも明らかである。

また,賛否の記載が何らかの形で様々に記載されているときは議決権行使書面の注意書に従うことなく様々な記載のとおり処理すべきであるのに,被控訴人はそのような処理をしなかった。すなわち,別紙分類表記載の『無無YY』と表示した株主は1号議案につき賛成として取り扱われ,結局,1号,3号議案とも賛成のため意思不明として無効と扱われたが,右株主は3号議案につき賛成しているのであるからその意思を無視するのは株主の議決権行使を不当に侵害するもので違法である。同様に『N無YY』,『N無無無』と表示した株主について被控訴人は2号議案につき賛成と取り扱ったが相当ではない。」

7  同4枚目裏1行目の末尾の次に行を変えて「被控訴人は,前記のとおり議決権を有する株主の数が千人以上の商法特例法上の大会社であって(甲第4号証),株主総会に出席しない株主は同法21条の3により書面による議決権の行使が可能とされており,参考書類規則6条,7条に右書面の様式等が規定されているところ,甲第5号証,乙第4号証の1,2及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人は商法特例法21条の3第2項所定の議決権行使書面に参考書類規則6条1項に従い四つの議案(第1,2号議案は会社提案,第3,4号議案は株主提案)ごとに賛否を記載する欄を設け,参考書類規則7条に従い『各議案につき賛否の表示をされない場合は,会社提出議案については賛,株主提出議案については否の表示があったものとして取り扱います。』との記載(以下「本件注意書」という。)をし,賛否の表示のないものにつき右記載のとおりに取り扱ったこと,第1号議案の利益処分案と第3号議案は両立しない内容であること,株主から提出された議決権行使書面の中には控訴人主張のとおりの記載をしたものが含まれているところ,被控訴人は,右記載を控訴人主張のとおり取り扱ったことが認められる。」を加え,6行目の「まで」を削り,同行の末尾の次に行を変えて次のとおり加える。

「(控訴人の当審における主張について)

参考書類規則7条は,賛否の意見の記載のない議決権行使書面の取扱いを,記載方法について議案ごとに記載せずに取締役提案分については賛成,株主提案分については反対と取り扱う旨一括記載することを許したものと解されるから,参考書類規則7条と6条の規定が控訴人指摘の異なった表現をとっていることは賛否の記載のない議決権行使書面をすべての議案について同様に取り扱うべき根拠にはならないと解される。

また,議決権行使書面に『無無YY』と表示した場合は,本件注意書によれば1号議案には賛成したものと扱われ,3号議案に関しては明示的に賛成の意思表示をしていることになる結果,配当金については矛盾した議決権の行使をしたことになり,右の議案に関する議決権の行使は無効であると解されるところ,甲第4号証及び検証の結果によれば『無無YY』,『無無YN』など1号議案と3号議案に関して矛盾した内容の議決権行使書面は,区分番号45番(6000株),同152番(4000株),同171番(2000株),同230番(6000株),同358番(1000株)であり,これらの株主の議決権の行使は無効と扱われたことが認められるが,議決権行使書面の記載に従った処理であり何ら違法はない。なお,『N無YY』,『N無無無』と表示した株主について2号議案につき賛成と取り扱うべきではないとする控訴人の主張はその理由が不明であるが,第2議案につき控訴人主張のように取り扱うべき合理的根拠は見出せない。控訴人の主張は理由がない。」

8  同5枚目表2行目の「(一) 」の次に「乙第4号証の1,2,第12号証によれば,被控訴人は株主に送付した議決権行使書面の被控訴人からの通信欄に『当日株主総会にご出席願えない場合は,議決権行使書用紙に賛否を表示し,ご押印のうえ平成7年6月28日までに到着するようこの部分を切り取りご返送ください。』と記載したこと,巽公雄の議決権行使書面(3万株)は期限後に到着したとして無効と扱われたことが認められるが,」を加える。

9  同5枚目裏11行目の「がたく,」の次に「また,立会人の応答の趣旨も明確とはいい難く,」を加える。

10  同6枚目裏10行目の「31日」の次に「(基準日)」を加える。

11  同7枚目表4行目の「あり」を「あって,不公平をもたらすものであり」に改め,5行目の末尾の次に行を変えて次のとおり加える。

「(当審における補充主張)

基準日以降に株式分割がなされて株式数が増加する場合,株主総会において議決権を有する株式に新株分を含めて計算すると,株主の変遷はなくともその株主の所有議決権比率が変動するので,株主の人物単位でその変化をみるのではなく,右比率で変化をみるのが当然である。原判決は,新株を含めて議決権を計算することによる不公平の有無を判断していない。」

12  同7枚目表7行目の冒頭から同7枚目裏4行目の末尾までを次のとおり改める。

「(一) 甲第4号証,乙第6号証,第7号証の1,2,第9号証及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人は1単位の株式数を1000株とする単位株制度をとっていること,被控訴人は平成7年3月13日付けで後記の株式の分割を行う旨,本件総会において権利を行使しうる株主は同年3月31日(基準日)最終の株主名簿及び実質株主名簿に記載された株主(以下『基準日の株主』という。)であり,その株式数は基準日の株主名簿及び実質株主名簿に記載された株式数と後記の株式分割により増加する株式数の合計数とする旨公告するとともに株主に対して通知したこと,被控訴人はその後同年5月19日を効力発生日として基準日の株主に対して所有株式数1株につき1.2株の割合(ただし,1株未満の端数株式は切り捨てとする。)をもってする株式分割(無償交付)を行ったこと,1単位(1000株)未満の株主については株主名簿に登録し,株券を発行しなかったこと,被控訴人は株式分割による新株に議決権を与えたため,本件総会において議決権を行使できる株主と株式数は単位株のみの株主160名(674万7000株),単位株と単位株未満の双方を有する株主1191名(単位株1114万3000株。なお商法230条の6,昭和56年改正商法附則18条1項により単位未満株主及び端株主は議決権を行使することができない。)の合計1351名(1789万株)から相互保有株主13名(10万2000株。商法241条3項により議決権を有しない。)を控除した1338名(1778万8000株)であったことが認められる。

(二) 右認定事実によれば,被控訴人は本件総会において権利行使をすることができる株主について控訴人主張のとおり扱ったことを認めることができる。被控訴人が基準日以後に行われた株式分割による新株に対して議決権を与えたことは,右新株も本件総会決議の拘束を受けることに照らすと右決議事項に対する利害は旧株と同一であることから違法ということはできず,株式分割により単位株未満の株式が生じてこれに議決権がないところから少数株主は多数株主に比較して議決権が相対的に減少することがあることは控訴人が指摘するとおりであり,控訴人主張の問題点のあることは理解できないわけではないが,右の単位株未満の株式に議決権のないことは法律の定めによるものであり,その結果,控訴人主張の事態が生じることはやむをえないことであるから,被控訴人が右新株に議決権を与える措置をとったことが違法であるということはできない。控訴人の主張は理由がない。」

13  同7枚目裏7行目の「株券を有しない」を「株券なき」に改め,8行目の「認めた。」の次に「例えば,ある株主の場合,議決権行使株数1万2000株のうち,本人名義株式1万株,本人名義登録株800株,証券保有機構名義株式1000株,証券保有機構名義単位未満株200株となっているが,株主とは自己又は他人の名義をもって記名式株券を有するものをいうのであって,株券が発行されていないのに単に株主名簿上の株数で議決権を与えるのは定款7条違反であり,株券なき株式に議決権を与えてした決議は著しく不公正な決議となる。株券等の保管及び振替に関する法律(以下「保管振替法」という。)33条2項のいわゆる名寄せは,単位株式についてのみ合算することを意味している。」を加える。

14  同8枚目表6行目の「かつ」から7行目の「から」までを「保管振替機構に預託した株式に株式分割により生じた単位未満株式は,株券の発行がなくても新株発行時に株券が預託されたものとみなされ(保管振替法19条),実質株主名簿上は株主として記載され,株主名簿との名寄せにより株主の総保有株式数が明らかな場合は,その保有株式数のうち,単位株部分に対して議決権を与えるべきであり」に,10行目の「株主の発言拒否」を「議長による株主に対する発言質問制限」にそれぞれ改める。

15  同8枚目裏1行目の冒頭から2行目の末尾までを次のとおり改める。

「(1) 本件総会開会前に『株主の皆様へ』と題する書面が配布されたが,右書面には『ご発言,ご質問は,(中略)監査報告が終了してから行われますようお願いいたします。』との記載があり,右記載は監査報告が終わるまで緊急を要する質問や動議を出すことも制限していると見られ,右書面の配布は議長による説明拒否,株主の発言質問制限に該当する。

(2) 議長は,本件総会において書面質問に対する一括回答が終了するまで,株主の発言を一切認めないという議事運営方針をとり,議長が『出席株主数等の報告,定足数充足宣言』をした際,控訴人が『出席株主数等』について質問しようとして発声したことに対し,議長はこれを無視し議事を進行させたが,不明な点はその場で解明したあと総会の成立を宣言し,その他の議事に進むべきであった。このように,議長が株主の発言,質問を制限していることは,本件総会の決議の方法を著しく不公正なものとしている。」

16  同8枚目裏3行目の末尾の次に行を変えて「 甲第4号証,乙第8号証及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人が本件株主総会の開会前に配布した『株主の皆様へのお願い』と題する書面には『ご発言,ご質問は,報告事項の報告と説明,決議事項の議案の提出と内容の説明および監査役の監査報告が終了してから行われますようお願いいたします。』との記載があること,議長は午前10時本件総会の開会を宣言し,その後,報告事項の報告,決議事項の議案上程,事前質問書への答弁,議決権,議事運営等に関する株主からの質問等と答弁,会社業務等に関する株主からの質問等と答弁,提案株主による株主提案議案の内容・提案理由の説明,議案の採決の順で議事を進行させたこと,控訴人は報告事項の報告が始まろうとするころ,本件総会において議決権を有する株式数は平成7年3月31日現在の1500万株を基準とすべきではないかなどと発言したところ,議長は報告関係終了後議決前に再度質問を受け付けるので,そのときにお願いしたい旨述べたこと,控訴人は報告関係終了後この段階まで株主の発言を受け付けず,動議も出せないのでは不当である趣旨の発言をしたところ,議長から動議を出すのであれば今からでも出すように促されたこと,その後,控訴人は議事運営等に関して種々質問したり意見を述べたりしたことが認められる。右配布された文書の内容及びその後の議事進行の経過に照らすと,右文書は議長となることが予想される代表取締役(定款12条)の意思に基づいて作成されたものということができる。」を,8行目の「格別,」の次に「動議の提出を含めて」をそれぞれ加え,9行目の「仮に」から10行目の末尾までを「前示のような議事の進行に照らすと前記の文書の配布及び本件総会における議長の議事運営は議長の裁量の範囲内に属するということができるのであって著しく不公正な措置であったと認めることはできない。」に改める。

17  同9枚目表3行目の末尾の次に「控訴人は,定足数を確認するためだけでなく株主提案の決議に関して会場出席者によってどのくらい影響を受けるかその保有議決権数を問うたものである。会議体の一般原則として議長は総会の成立及び議事の運営に関する株主の質問に対して合理的範囲においてこれに答えなければならない。」を,7行目の「開会時に,」の次に「総会事務局から」を,10行目の「なされていること」の次に「,控訴人は本件総会において出席者の人数の内訳(委任状出席)の報告を求めたが,議長は委任状,議決権行使書の確認は議長の権限になっているので,詳細の回答は不要であると拒否したこと」を,同行の「でき,」の次に「総会事務局の株式数等の右報告は総会の定足数を判断するための情報として合理的な内容であったということができるから,」をそれぞれ加え,同行の「これを」を「総会事務局のした前記報告を」に改める。

18  同9枚目裏2行目の末尾の次に「なお,控訴人が会場出席者によって控訴人らの株主提案がどのくらい影響を受けるかを知るために会場出席者の保有議決権数を質問したとしても,右質問は総会の成立や議事の運営に関する質問ということはできず,これに対する応答が前記のとおりであったとしても違法な説明拒否であるということはできない。」を,9行目の「から」の次に「資産の安全性の観点から」を,同行の「取締役が」の次に「銀行の株主もいるのでこの場で数値をいうことはできない旨答弁し,代表取締役が」をそれぞれ加える。

19  同10枚目表6行目の「思われるが,」の次に「控訴人の質問事項は基本的には被控訴人会社の執行機関の経営判断に委ねられるべき事項と考えられ,」を,「原告が」の次に「資産の安全性の観点以外に」を,7行目の「なく,」の次に「右の観点からは取締役の回答により目的を達したものと考えられるから」を,8行目の「取締役が」の次に「銀行と今後も円滑な取引を図るうえから」を,同行の「いって,」の次に「右回答を一概に違法なものということはできず,」をそれぞれ加える。

20  同10枚目裏8行目の「おいても,」の次に「時期について全く説明をしていないわけではなく,48期中(甲第5号証によれば平成5年10月から平成6年3月までの期間と認められる。)に聞いているとして一定の期間を限定して回答しており,」を加える。

21  同11枚目表3行目の「ついて,」の次に「どの株主が賛成,反対,棄権の意思を表明したのか出席株主及び総会検査役にはっきり分かる」を,5行目の「選択した。」の次に「発声による表決方法をもって記名式投票方法に代えることはできないから,信義則に反し著しく不公正な決議方法である。本件総会では大株主がどのように発声したか,誰が大株主であるか不明な状態であったが,表決方法は議長だけが出席者の意思を算定できる方法であればよいのではなく,出席株主が明認し得べき方法で採決しなければならない。」を,末行の末尾の次に「議長は,議案ごとに表決の方法を変えるのであれば事前にその旨株主に知らせ,承認を得るべきであった。」をそれぞれ加える。

22  同11枚目裏4行目の末尾の次に「挙手しなかった株主は,賛否いずれとも決しがたいのであるから,残りの株主の賛否いずれかの多数の方に加えられるべきである。」を,8行目の「規定は」の次に「なく,被控訴人の定款(乙第9号証)にも規定は」をそれぞれ加える。

23  同12枚目表2行目の「れる。」の次に「甲第4号証,乙第17号証及び弁論の全趣旨によれば,本件総会における議決権の総数は1221万1000株で,その過半数は610万6000株であったこと,議決権行使書面提出株主については第1号議案に賛成の株主165名(201万4000株),反対の株主86名(107万5000株),意思不明の株主118名(55万1000株),第2号議案に賛成の株主309名(304万3000株),反対の株主58名(59万7000株)であったこと,議長は,第1,2号議案の決議に関し会場出席株主100名(857万1000株)について発声の方法により議案に賛成の株主を確認したところ,保有株式数上位10位までの株主のうち8名が出席していたが,そのうち7名の株主(622万6000株)を含む大多数の株主が異議なしと発声し,議長や検査役を含む出席者が右各議案が賛成多数で決議されたことを確認できる状態であったことが認められる。」を加え,同行の「のみ」を削り,4行目の末尾の次に行を変えて「甲第4号証及び弁論の全趣旨によれば,議長は第3,4号議案について『正確を期すために,株主提案に御賛成の方,挙手をお願い申しあげたい。』と求めたところ,右各株主本人兼代理人を含む4名が挙手し,賛成は7名(38万7000株)であったこと,議長は右の賛成議決権数と議決権行使書面による賛成議決権数を合算しても過半数に達していないので右各議案について否決された旨宣言したことが認められるから,議長は控訴人主張のとおり議案により異なる表決方法を採用したということができるが,」を加え,5行目の「ない」から6行目の「別として,」までを「なく,第3,4号議案に関しては第1,2号議案より慎重な方法で決議したということができるので,」に改め,7行目の末尾の次に「また,控訴人は議案ごとの決議方法をあらかじめ株主に知らせなかったことを非難するが,そうだとしても,不合理,不公平が生じるとは考えられないので違法とはいえない。」を加える。

五  以上のとおり本件総会における決議に関して取消事由となるべき瑕疵は認められず,本訴請求は理由がない。

六  よって,本訴請求を棄却した原判決は正当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,控訴費用の負担につき民事訴訟法95条,89条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判官 小野博道 裁判官 土屋靖之 裁判長裁判官宗方武は転補のため署名捺印することができない。裁判官 小野博道)

〈以下省略〉

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